月の記録 第39話


「ご無事でしたか、殿下!」

全速力で駆けてきたスザクとジノを見て、ルルーシュは呆れたように息を吐いた。

「見ての通り無事だ。まったく、ラウンズは魔女より無能なのか」

ショッピングモールから車で10分ほどの打ち捨てられた廃ビルの階段に、ルルーシュが腰をおろしていた。その隣には、彼を見つけ出した魔女C.C.も座っていて、駆け寄ったスザクとジノを見ること無く大きな欠伸をした。

「それで、殿下を誘拐した犯人は何処ですか?」

お忍びだったとは言え皇族を誘拐したのだ。犯人は問答無用で牢屋行き。そして普通よりも重い刑を受ける。でも、それだけでは足りない。二度とこんな事が出来ないよう、この手で。そんな事を考えていた二人の顔を見て、「自分たちの不手際の証拠を消すために、犯人を殺す気か?」とC.C.はからうように言った。

「もうここにはいない。私が締めあげたから、二度とルルーシュを誘拐しようなどとは考えないだろう」

魔女は何事も無かったかのように言うと、オレンジジュースのペットボトルを傾けた。みれば二人の間には、空になった水のペットボトルと、飲みかけの紅茶のペットボトルもある。恐らくC.C.が買ったのだろう。

「ここにいない?逃がしたのか!?」

ジノが、目を吊り上げて魔女に言った。
皇族であるルルーシュを誘拐した犯人。もしかしたら先のテロの首謀者たちかもしれないし、そこに繋がる可能性のある者たちだ。今日ルルーシュをたまたま見掛け、誘拐したにしては、用意周到すぎるため、必ず組織で動いているはず。そんな相手を、あっさりと逃がしたというのだ。

「まあ、結果としてはそうなるか」

平然とした口調で答えるC.C.に、ジノの眉間のしわは深くなった。

「締めあげた程度で考えを改めるわけがない!何故逃がしたんだ!」
「いかに魔女と言われる私でも、出来ることと出来ない事があるといわなかったか?ルルーシュを見つけ出し、30を超える屈強な男たちの手から無傷で救い出した。そして、二度とルルーシュに対して危害を加えないように手を下した。私にできる事はそこまでだ。そいつらを拘束し、その上この男のお守など、私には無理だな」
「そこまでできたのなら、一人ぐらい縛り上げることもできただろう!」
「出来なかった」
「魔女ではないアーニャにだってできる事だ!」
「私はアーニャではない」
「そんな事を言っているんじゃない!」
「0か100だ」

C.C.が言葉に、ジノは眉を寄せた。

「ルルーシュを護るために、この場にいたテロリストを0にするか、それとも30を超える男たちをそのままにするか。そのままにしたなら、当然私も掴まって、ルルーシュを助けるなんて芸当は不可能だ」
「・・・それが、魔法だと?」

ジノとC.C.の言い合いにスザクも口を挟んできた。

「普通では起こりえない現象がここで起きた。それを魔法と呼ぶのなら、テロリスト相手に魔法が使われた事になる」

魔法だと言い切らないC.C.に、ジノとスザクは眉を寄せた。

「いい加減にしろ下らない言い合いは俺のいないところでやれ。これは、C.C.の意思ではない。だから、聞くだけ無駄だ」

そういえば、C.C.は勘を頼りにルルーシュを探すと言って、車で10分も離れたこの場所にいるルルーシュを見つけ出した。魔法ではなく、勘と彼女は言った。もしかしたら、彼女の魔法とは自分たちが物語などで目にしたモノとは異なるのかもしれない。

「そう、私の意思で起きる現象ではない。魔法、あるいは奇跡と呼ばれるものはな。だが、私が無関係というわけでもない。あまり考えるな、そういうものだと思っていればそれでいい」

ルルーシュは立ち上ると、服についた汚れを払った。
C.C.も同じく立ちあがると、ルルーシュと共に歩き出した。



ルルーシュを狙ったテロリスト、彼らの狙いとその目的はルルーシュが聞いており、当初はユーフェミアとルルーシュ、二人の皇族が警備の薄い辺境に赴く情報を手に入れ、どちらか一人、あるいは二人とも誘拐し拷問したあと殺害、それが無理ならその場で、というものだという。
あの日、襲撃は成功したが、皇族二人は生き延びた。
その後内通者から、ユーフェミアは多くの兵に守られペンドラゴンに戻ったが、皇族としての地位が低いルルーシュは、傷を負ったにもかかわらず僅かな護衛と共に身分を隠し別ルートでペンドラゴン入りしたとわかった。
同じ皇族でも、兄と妹という生まれであっても、その母親が持つ力によってこれほど扱いに差が出るのだと知り、ならば護衛が少なく、力の無いルルーシュを狙う方が確実だと判断したという。
そんな中、ルルーシュは僅かな護衛と共に再びペンドラゴンを離れた。
先のテロ被害者であるルルーシュのために、皇帝が自分の騎士であるナイトオブラウンズを2名付けたというが、たった二人増えた所で何も変わらない。ルルーシュが滞在先の屋敷を襲撃する手はずを整えた。本来の滞在日数を考え、到着した日と出立の日は警戒が厳重だと考え、二日目の夕刻を狙い襲撃した。
だが、前夜の夜会で機嫌を損ねたルルーシュは早朝に出立しており、急な日程変更のため、内通者はその連絡をする暇が無かったという。そして、ようやく時間が出来、ルルーシュが通るルートを内通者が伝えてきたため、あの峠での襲撃を決行した。
だが、それも失敗に終わる。
たった二人と侮っていたナイトオブラウンズは、化物じみた強さを兼ね備えており、あっという間に制圧された。
そこで諦めればよかったのだが、意地になったのだろう。絶対にあのお飾りで無能な、見た目だけの皇族ルルーシュを誘拐し、嬲り殺しにする。その映像をネット上に流してやろう。死んでいった仲間、そして捕縛された仲間の恨みを、全てルルーシュに。
その機会を待っていた時、お忍びで町に行く話が内通者より入った。
ナイトオブラウンズに囲まれていたため、いかに彼らの目を欺き、ルルーシュを連れ去るか計画し、実行。防犯カメラの映像を見ても、どのようにしてルルーシュを誘拐したのか解らないほど鮮やかなな手並みで目的を果たしたのだが、魔女C.C.の逆鱗に触れたテロリストは、目的を達することなく散り散りになり逃げていったという。

C.C.の言った通り、その後皇族を狙うテロはパタリと途絶えた。 それと同時期にテロ活動は静まり、各エリアが起こしていた内乱も沈静化し、ブリタニアに反旗を翻していた国々も大人しくなった。小さな争いや犯罪までは無くなる事はなかったが、それでもブリタニアが侵略戦争を始めてから初めて平穏と呼べる時が流れていた。

だが、それは嵐の前の静けさに過ぎす、その1年後、世界は戦禍に飲み込まれることとなった。

38話
40話